多焦点眼内レンズを用いた白内障手術について
従来からの多焦点眼内レンズは遠方・近方の2カ所に焦点を合わせているため、遠方や近方で眼鏡なしで生活できるようになります。ただし、乱視の強い症例や瞳孔が小さい症例では、十分な効果が出にくい場合がありますので、すべての方に多焦点眼内レンズの効果が保障されているわけではありません。また、多焦点眼内レンズの複雑な構造上、通常の単焦点眼内レンズに比べると、夜の強い光をまぶしく感じたり(グレア)、光の周辺に輪がかかって見えたり(ハロー)、眼内に入る光を遠近で振り分けるためのコントラストの低下(見え方の質の低下)など生じる場合があります。通常こうした症状は個人差もありますが、手術後の経過で軽快していくことがほとんどです。
また多焦点眼内レンズを挿入したとはいえ、若い頃の自由な見え方の目に戻るわけではありません。多焦点眼内レンズの光学的な特性を生かし、遠方や近方で様々な距離でピントが合うようになりますが、あくまで最終的な見え方の調整は眼鏡になります。多焦点眼内レンズを使用することで眼鏡の使用頻度を少なくし、その依存度を低くすることが目標となります。
レンズ表面の複雑な構造(遠近に光を振り分けピントが合うように作られている)
(左)保険診療で用いる単焦点眼内レンズ(遠方)の見え方/(右)多焦点眼内レンズの見え方
多焦点眼内レンズの見え方では、テレビと手元のリモコンもピントが合いますが、単焦点眼内レンズでは手元は見えません。手元については眼鏡を使用することで見やすくなります。
もう一つの多焦点眼内レンズを挿入した場合の見え方の例です。
手元の携帯と、遠方の景色の双方にピントがあっていることがわかります。しかし、中間距離であるティーポットはややぼやける傾向があります。これは、多焦点眼内レンズが、遠方と近方の2峰性のピントを主体に作られているためです。
多焦点眼内レンズには、いくつか種類があり、この中間距離にピントをもつ3焦点レンズ、さらに近中、遠中をプラスした5焦点レンズ(ほぼすべての距離に焦点が合う構造になってます。)など、海外で実際に使用されている先進的な眼内レンズを取り寄せて手術に使用することも行っております。
以下当院で使用している多焦点眼内レンズの一覧です。できるだけ患者さんの希望に合うようなレンズを選択できるようにしております。
多焦点眼内レンズの一覧(当院使用)
横にスクロールできますレンズ 形状 |
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名称 | Tecnis Multifocal テクニス マルチフォーカル J&J社 (アメリカ) |
テクニス シンフォニー オプティブルー J&J社 (アメリカ) |
Clareon PanOptix Trifocal クラレオン パンオプティクス トリフォーカル アルコン社 (アメリカ) |
テクニスシナジー オプティブルー J&J社 (アメリカ) |
Clareon Vivity クラレオン ビビティ (アメリカ) |
FineVision ファインビジョン (ベルギー) |
mini well READY SIFI MedTech社 (イタリア) |
インテンシティー Hanita Lenses 社 (イスラエル) |
光学部 デザイン |
回折型 | 回折型 | 回折型 | 回折型 | 波面制御型 | 回折型 | プログレッシブ タイプ |
回折型 |
乱視矯正 | なし | あり | あり | あり | なし | あり | なし | なし |
ピント | 遠方と近方 | 遠方と中間 | 遠方と 中間と近方 |
遠方~近方 (連続焦点) |
遠方~中間 | 遠方と 中間と近方 |
遠方~中間 | 遠〜近方まで 5焦点構造 |
近見 焦点距離 |
50cm 42cm 33cm *選択レンズにより異なります |
66cm | 60cm・40cm | 33cm | 60cm | 30cm | 40cm | 40cm |
読書 | *選択レンズにより異なります | △ | ◎ | 〇 | △ | ◎ | △ | ◎ |
PC | *選択レンズにより異なります | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
ゴルフ | *選択レンズにより異なります | 〇 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
夜間運転 | *選択レンズにより異なります | △ | △ | △ | ◎ | △ | ◎ | 〇 |
グレア・ ハロー |
あり | やや少ない | あり | あり | ほぼ無し | あり | ほぼ無し | 少ない |
コメント | 近方の焦点距離のバリエーションが豊富。 重視する作業距離へ選択可能。 |
パソコンからゴルフまで中間~遠方重視。 読書は老眼鏡使用を。 |
2019年登場の新しいレンズです。40~80cmの連続した焦点距離の見え方の質を向上させています。 | 「連続焦点」という新しいデザインとなっており、テクニスマルチフォーカル、テクニスシンフォニーの長所を併せ持つ構造。 光学部デザインについて |
単焦点眼内レンズと同程度までグレア・ハローを軽減遠方から実用的な近方距離まで、切れ目の無い優れた見え方を実現。 | グレア・ハローのなるべく軽減された、遠中近バランスのとれた見え方を希望の方に。 | パソコン・ゴルフ・運転など、中間から遠方視力を重視したい方に。近方はやや弱め。 | エネルギーロスが大幅に減少(6.5%)。 40cmから遠方まで視力の落ち込みが少ない新世代5焦点レンズ。 |
選定療養・ 自由診療 |
選定療養 | 選定療養 | 選定療養 | 選定療養 | 選定療養 | 自由診療 | 自由診療 | 自由診療 |
金額 (税込) |
189,200円 (税込) |
196,900円 (税込) |
304,700円 (税込) |
273,900円 (税込) |
304,700円 (税込) |
440,000円 (税込) |
440,000円 (税込) |
440,000円 (税込) |
乱視用 金額 (税込) |
乱視用なし | 207,900円 (税込) |
353,100円 (税込) |
295,900円 (税込) |
乱視用なし | 440,000円 (税込) |
乱視用なし | 乱視用なし |
光学部デザインについて
回折型
同心円状に階段状の段差構造をもつレンズです。回折現象を利用して、眼内に入る光を遠方と近方の2種類に分けます。遠方と近方がよく見えるのが特徴ですが、光を2つに分けてしまうため、コントラストの低下が生じやすいといわれています。
瞳孔の大きさにはあまり影響を受けにくいレンズの種類になります。
屈折型
レンズに遠方と近方を異なる屈折力をもつ部分が同心円状に交互に繰り返される構造をもつレンズです。遠方を見るのに優位なレンズデザインですが、近方視力を得るためにはある程度の大きさの瞳孔径が必要になりますので、目の状態によって適応が変わってきます。
回折型に比べてハローやグレアなどの症状が出やすいといわれています。
プログレッシブタイプ
「正と負の球面収差」を利用し、遠、中、近でスムーズな見え方を実現。従来品の屈折型や、回折型IOLに比べ、見え方の質が向上していると言われてます。
各多焦点眼内レンズの特徴
横にスクロールできますTECNIS multifocal(テクニスマルチフォーカルシングルピース) 材質はアクリル製で、遠方と近方に焦点が合うように設計されており、国内でもっとも使用される多焦点眼内レンズの一つです。レンズ後面が回折構造、レンズ前面が非球面構造となっているレンズで、見え方が瞳孔の大きさに左右されにくくなっています。 近見の焦点は33cm・42cm・50cmと、主に重視する近用作業距離に応じてレンズを選定できるメリットがあります。 |
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Fine vision(ファインビジョン) 2011年に発売された、材質は親水性アクリルの多焦点眼内レンズで、遠方と近方以外に中間距離にも焦点をもつ3焦点型の多焦点眼内レンズです。レンズはアポダイズド回折型で非球面デザイン、遠方と近方、遠方と中間距離の2種類の2重焦点レンズを組み合わせた二重構造になっているため、3焦点(遠方、中間、近方)が見える構造になっています。 また、アポダイズド構造によってハローやグレアはかなり軽減され、また、角膜乱視を矯正できる「乱視用」もあります。 ※ファインビジョンはベルギーからの輸入となります。国内未承認レンズとなります。 Fine vision(ファインビジョン)の説明動画 |
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mini well 世界で最初に開発された「プログレッシブタイプ」の眼内レンズです。 「正と負の球面収差」を利用し、遠、中、近でスムーズな見え方を実現。 また、グレアハローと言われる、夜間の光のにじみ、ぼやけの症状が従来の多焦点眼内レンズに比べ大幅に改善されているのが特徴です。 【miniwellについて】詳しくはこちら ››› ※mini wellはイタリアからの輸入となります。国内未承認レンズとなります。 |
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Clareon Vivity(クラレオン ビビティ) 欧米では2020年より普及していましたが、日本でも2023年に厚生省の認可を得て発売されたアルコン社最新の眼内レンズ。X-WAVEテクノロジーという新たな技術を搭載した波面制御型IOLです。このレンズは遠方から中間、そして近方視においても実用的な見え方を提供することができます。また、グレア・ハローにおいては単焦点レンズと同程度まで軽減されていますので、グレア・ハローの気になる方や、夜間運転などされる方にはお勧めのレンズとなります。 【Clareon Vivityについて】詳しくはこちら ››› |
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Clareon PanOptix Trifocal(クラレオン パンオプティクス トリフォーカル) 欧州で臨床評価が高く、トップシェアとなっている3焦点の多焦点眼内レンズです。 日本では2019年6月に厚労省の認可を受けて先進医療特約の給付が受けられるようになり、現在は選定療養の対象レンズとなっております。従来の2焦点レンズではピントが遠方と近方にわかれるため、中間距離の見え方が弱くなってしまうことが問題でしたが、3焦点レンズでは遠方、中間距離、近方に焦点を配分することで、その弱点をカバーして、より自然な見え方になります。 ENLIGHTEN™ 光学テクノロジーにより、「遠方・60cm・40cm」で中間が60cmにピントのピークがるため、40~80cmの連続した焦点距離の見え方の質が良いように設計されています。 コンピュータ作業、スマートフォンの使用、料理、本やメニューを読む、携帯型ゲームで遊ぶといったことが、より快適にしやすいように配慮されています。 クラレオン パンオプティクス トリフォーカルの詳しい説明動画 |
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インテンシティー 2020年7月発売の5焦点(遠方、遠中、中間、近中、近方)眼内レンズです。 最大の特徴は、 光エネルギーロスが多焦点眼内レンズで最も少ない6.5%であること(従来の3焦点眼内レンズでは12%~14%の 光エネルギーロスがあると言われています) 、幅広い焦点域(5焦点)を持っている点です。 5焦点化により、従来の3焦点レンズに比べても全距離(∞~40cm)で良好な見え方を実現しています。 インテンシティーの詳しい説明動画※インテンシティーはイスラエルからの輸入となります。国内未承認レンズとなります。 |
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テクニスシナジーオプティブルー テクニス シナジーは、これまで選定療養の対象となっていた2焦点、3焦点眼内レンズとは違い、「連続焦点」という新しいデザインとなっております。 テクニスマルチフォーカル、テクニスシンフォニーの長所を併せ持つ構造となっており、遠方(運転・ゴルフ)から中間(パソコン)、近方(スマートフォン・読書)まで、2つの回折技術の融合で昼夜を問わず鮮明な見え方を実現しました。 グレアハローも同社従来品より軽減されております。 選定療養対応レンズとなります。 |
多焦点眼内レンズを希望される患者さんへ
多焦点眼内レンズは、20-30歳代のような不自由ない見え方に完全に戻せるわけではありません。
当院では、手術前に患者さんの生活スタイルや希望する見え方をDrや検査職員が十分聴かせていただき、現在使用可能な眼内レンズから、希望の見え方に近づけることができるレンズ選択を行い、また多焦点眼内レンズの見え方の限界も理解していただいた上で、手術を受けていただけるようにしております。
手術前に医師と患者さんとの十分なコミュニケーションが形成され、安心して手術を受けていただけるよう、十分な時間と情報提供を行っております。
費用構造も複雑で、眼内レンズの種類も多岐に渡りますので、迷うときはお気軽にスタッフ、医師へお問い合わせください。
手術費用(選定療養) 当院では令和3年10月1日以降の手術に対応
多焦点眼内レンズを使用する白内障手術を受ける場合、当院では選定療養の費用として、通常の診療費とは別に以下の金額をご負担いただきます。
多焦点眼内レンズの種類 | 金額 |
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J&J テクニスマルチフォーカル(2焦点) ピント: 遠方+近方(約33cm・42cm・50cm) |
189,200円 (税込) ※乱視用はありません |
J&J テクニスシンフォニー(2焦点 焦点深度拡張型) ピント: 遠方+近方(約66cm) |
196,900円 (税込) 207,900円 (税込) (乱視用) |
J&J テクニスシナジー オプティブルー(連続焦点) ピント:遠方~近方(約33cm) |
273,900円 (税込) 295,900円 (税込) (乱視用) |
アルコン クラレオン パンオプティクス トリフォーカル(3焦点) ピント: 遠方+中間(約62cm)+近方(約40cm) |
304,700円 (税込) 353,100円 (税込) (乱視用) |
アルコン クラレオン ビビティ ピント: 遠方~中間(60cm) |
304,700円 (税込) ※乱視用はありません |
選定療養とは
選定療養とは、患者さんご自身が選択して受ける追加的な医療サービスで、その分の費用は全額自己負担となります。令和2年4月より、術後の眼鏡装用率の軽減を目的とした多焦点眼内レンズを使用する白内障手術は、厚生労働省が定める選定療養の対象となりました。
当院は、令和3年10月1日以降の手術に関して、多焦点眼内レンズの白内障手術を行う医療機関として届出をしています。多焦点眼内レンズの対象となる患者様には診察時に詳細をご説明致します。
<自由診療 適応 多焦点IOL>
手術費用/ファインビジョン・インテンシティー・mini well
※(国内未承認のため、医師の個人輸入となります。ただしEU加盟国品質適合品であるCEマークを取得済みです。)
片眼 440,000円(税込)
両眼 880,000円(税込) ※左記には、術後約2ヶ月間の検査代、点眼薬代を含みます。
当院の取り扱う多焦点眼内レンズ(海外から輸入して使用する多焦点眼内レンズ(Fine Vision・mini well・インテンシティー)は、EUでは適合品の品質基準を満たしておりますが、 国内未承認品となります。そのため、すべて自費診療となります。